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【Creative Selection, Apple 創造を生む力//ケン・コシエンダ】(3/3)創造性とダーウィニズム

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2月を迎えて井戸の底。普段は小説を書いてます。趣味は映画鑑賞とボードゲームと飲酒です。最近、YouTubeを始めました。

選択の積み重ね

 本書によると、進化論を唱えたダーウィンは「種の起源」の第1章で、当時著名だったユーアットという獣医教育者の説明を引用しているらしい。その一節を、本書からそのまま引用しよう。

あるいはそれぞれ異なる方法で人間の役に立っているさまざまな犬種を比較するときには(中略)単に「ばらつきがある」ということ以上に深く考えなければならない。
私たちは、こうしたあらゆる品種が、いま私たちが知っているような完璧で有用な品種として突然発生すると考えるわけにはいかない。実際、そのような経緯でなかったとわかっているケースもある。
鍵となるのは、人間が持つ、「選択を積み重ねる能力」だ。世代が進むたびにばらつきが生じるのは自然の力だが、そのばらつきの結果が人間にとって有用になるように、一定の方向に積み重ねていくのは人間だ。

 本書を読んだ方か、今まで本書について紹介してきた記事を読んだ方であれば、iPhoneのような革新的なツールがジョブズのインスピレーションによって突然変異的に生まれた訳ではない、ということが分かっていただけると思う。共感力とテイストを強く意識し続けることや、デモを作り、それによるフィードバックを得て少しずつデモを改良する99%の努力を含め、そこに「偶発的な飛躍」は存在しない。常に着実に努力し続ける。時たま面白いアイデアが浮かんだらデモを作り、有用であれば取り入れる。共感力やテイストにそぐわなければ排除する。その繰り返しである。その選択の繰り返しがあったからこそ、safariが産声を上げ、ソフトウェアキーボードを完成した。その選択の繰り返しをアップルがたゆまず行っているからこそ、今も素晴らしい製品が作られ続けている。

 本書のタイトルにもなっている「クリエイティブ・セレクション」(創造的選択)とは、

デモを行い、フィードバックに基づいてやるべきことを絞り込み、新たなデモを行うという繰り返しによって、着実に前に進むことを、「クリエイティブ・セレクション」と呼んでいる。クリエイティブなアップルの製品は、ひらめきによって一瞬で生み出されるのではなく、地道な「選択の繰り返し」によって完成するものなのだ。

 賞賛を浴びるような作品がある。クリエイティブと呼ばれる作品がある。それらは、一握りの天才が特権的な天啓をもとに悠々と組みたてるものでは決してない。創造性は確かに神秘的なものだ。脳のどこにそれがあるのか、それまで存在しなかったアイデアがどこからくるのか。それは僕にも分からない。しかし、その1%の思いつきを実際に形にし、のみならず「作品」(≒小説、絵画、音楽、その他全て)として完成させるために必要なものとは、共感力とテイストを強く意識しながらも99%の努力をいとわない選択の積み重ねなのである。

 もしもあなたに1%の何か、例えばひらめきや願いや好奇心や情熱があるなら、他に待つべきものは何もないと断言したい。
 この世界には1%のまま立ち消えになっているものが多すぎる。だから、1%の伴わない工業製品のようなコンテンツが相対的にあふれかえっているのだ。
 是非、その1%を「作品」にしてほしいと僕は思う。その過程、99%の努力の段階で仮に僕に助力できることがあったら、何でも言って欲しい。

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