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【アイデアのつくり方//ジェームス・W・ヤング】(2/2)

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2月を迎えて井戸の底。普段は小説を書いてます。趣味は映画鑑賞とボードゲームと飲酒です。最近、YouTubeを始めました。

広告クリエーターのバイブル

 1940年に出版された本書は今や「アメリカの広告クリエーターのバイブル」と呼ばれており、それを書いたジェームス・W・ヤングはアメリカ最大の広告代理店トンプソン社の常任最高顧問だそうである。つまり、そこに書かれているのは彼の経験と業績に裏打ちされた極めて実地的な方法論である。その方法論については(1/2)で紹介させて頂いた。

 ところで、本書は実に短い本である。本文は57ページしかない。35ページの解説を加えて、ぎりぎり「本」と呼べる厚さになっているのだ。しかし、その短さはジェームス・W・ヤングの膨大な知見を濃縮した結果であるから、すごく勉強になる。それに読んでいて普通に面白い。

 という訳で、今回は印象に残った箇所を本書から引用してその内容を紹介しながら、考えたことや感じたことを紹介していこうと思う。

「心を訓練すること」その原理と方法

 どんな技術を習得する場合にも、学ぶべき大切なことはまず第一に原理であり第二に方法である。これはアイデアを作り出す技術についても同じことである。
(中略)
知っておくべき一番大切なことは、ある特定のアイデアをどこから探し出してくるかということではなく、すべてのアイデアが作りだされる方法に心を訓練する仕方であり、すべてのアイデアの源泉にある原理を把握する方法なのである。

①原理とは

 筆者は本書にて、2つの原理を挙げている。

・「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
・「既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存する」

「俺にそんな才能なんてない」なんて言わないで欲しい。ここで言う才能もまた技術の変種であり、然るべき訓練を施せば後天的にいくらでも得られると僕は考えている。筆者は「広告マンがこの習性(=事物と事物の関連性を探ろうとする習性)を修練する最も良い方法の一つは社会科学の勉強をやること」と書いているが、僕はもっとシンプルなものでいいと思う。
 つまり、好奇心を意識するのだ。
 例えば片思いの相手に交際相手がいるのか、あるいはそれに類する親しい友人がいるのかをFacebookやTwitterなどで探ろうとするのは、普通「ネットストーカー」なんて言われるが、要はそれも「既存の要素(人間と人間)の関連性を探ろうとする」行為であり、それも好奇心の一種だ。「好奇心が元々希薄なんだよね」と自認する人間は、まず「関連する事物を知りたくなる」程度に好きになれる対象を探してみてはいかがだろう。(これを読んでいるあなたなら分かるだろうが、ネットストーカーをやれという意味ではない。念のため書いておく)

②方法とは

 これは(1/2)で書いた「5つのプロセス」のことである。まだ読んでいない方は是非読んでみて欲しい。

「夢中になってる人」は天才で有利

つまりザ・スペキュラトゥールとは投機的タイプの人間ということになる。このタイプの顕著な特徴は、パレートによれば、新しい組み合わせの可能性に常に夢中になっているという点である。
(中略)
端的にいえば、(例えばわが国のルーズヴェルト大統領のように)もうこの辺で十分だとうち切ることができないで、どうすればまだこれを変革しうるかと思索(スペキュレート)するあらゆる分野の人々がすべてこのタイプに含まれているわけである。

 この箇所は、パレートという社会学者の「この世界の全人間は二つの主要なタイプに大別できる」という考えに関連させて「生来アイデアを生み出しやすい人間とは、どのような人間か」について述べているのだが、僕はこの「夢中になれる」人間こそが天才だと思っているし、「夢中になっている」人間はすごく有利だと思っている。

なぜ天才だと思うか

 それは「夢中になる」という状態に対して本人が嘘をつけないからだ。夢中になっている状態とは、生まれ持った凸(個性)の部分が、そのまま合致する凹(舞台)にはまって、凸の部分が最も効果的に発揮されている状態だと解釈している。そして、それ以外のことがおざなりになったとしても、その分野を深掘りし続ける人間こそが、僕の考える「天才」だ。例えばこれを読んでいるあなたが寝食を忘れて読書に没頭してしまうなら、あなたは「読書の天才」なのだ、と僕は思う。

なぜ有利だと思うか

 仮にあなたの凸が最も効果的に発揮される舞台で、ある程度の日銭を稼ぎたいと思っているのなら(=好きなことで生きていきたいのなら)、あなたは一番最初に、それ相応の環境を構築しないといけない。

 読書の天才が、読書で生計を立てていくには、何をすればいいだろう。その解答は人それぞれであると思うが、まずもってそれ相応の努力が必要になるし、時間だってかかる。だが、あなたが「何かの天才」なら勝算はあると僕は思う。「夢中になっている状態」とは「対象が好きで仕方ない、楽しくて仕方ない」という状態のことだが、好きなこと、楽しいことは「もうこの辺で十分だと打ち切ることができない」からだ。退屈な仕事は5分だって残業したくない。嫌々やっていて、能率が上がる訳でもない。だけど、心の底から楽しいと思える作業だったら、何時間でもできる。能率を上げるための建設的なアイデアだっていくらでも浮かぶだろう。

 だから、夢中になれるものを見つけた人間は、その分野の天才だと僕は思うし、すごく有利だと考えている。

「5つのプロセス」を流用する

ここで一つ奇妙な要素が入りこんでくる。それは、事実というものは、あまりまともに直視したり、字義通り解釈しない方が一層早くその意味を啓示することがままあるということである。

 これは、(1/2)で紹介した第二段階「咀嚼」について語られている内容である。 ヨーロッパに「見詰める鍋はなかなか煮えない」という諺がある。理解を深める「咀嚼」の段階においても、どうやら「見詰めてると煮えない」という現象は適用されるようである。

 ここで僕は考えた。
 この「見詰めてると煮えない」という現象は言わば、(1/2)で紹介した5つのプロセスをミクロの視点で言い換えているのではないだろうか。つまり、第四段階において
「常に意識していながらも、ふっと息を抜いた瞬間にアイデアが浮かぶ」
ように、 事実というものも
「直視せず横目で眺めたり、ゆるく解釈したり(≒ふっと息を抜く)した瞬間に表れる」
のではないだろうか。

 更に僕は考えた。 
 第二段階「咀嚼」においても「5つのプロセスが適用されている」という事実は、「およそほとんどの知的活動にも何らかの形で5つのプロセスが適用されている」という事実を示唆しているのではないだろうか。
 つまり、先に紹介した「5つのプロセス」を適宜アレンジし流用することで「アイデアの作成」以外の知的活動も効率化できるのではないだろうか。

 もしもあなたが何かに行き詰まっているのなら、5つのプロセスを意識してみるのはどうだろう。

自分で成長する「アイデア」

良いアイデアというのはいってみれば自分で成長する性質を持っている

 僕は小説を書いているが、進捗が一番滞っている時期は、「これだ!」と思える良いアイデアを模索している時期である。
 だが、何か一つでも「これだ!」というアイデアを見つけると、小説のプロットは一気に進行する。つまり「良いアイデアは自分で成長する」のである。

自分で成長するとは?

 その原理について、改めて考えてみた。
 恐らく「良いアイデア」が軸となり、

①その軸の周辺で散逸していた資料が、ある方向性を獲得して自ずから整理され始める
②その軸を中心にして、直近で集めるべき資料(≒当面の間、相対的に有用性が高いと言える情報)が分かるようになる

 と言うことだと思う。
 たった一つの「良いアイデア」さえ見つけられれば、万事うまくいくのだ。
 それを生み出すまでがしんどいだけだ。

 今、何かを成し遂げようとうんうん唸りながら「こんなしんどい作業がずっと続くのか」と思っている人は、是非安心して欲しい。その苦しさは(それが楽しくもあるんだけど)一度抜けてしまえば、後はもうすいすいである。

それ自身のために-夢中になろう-

私がインディアンの伝承やスペインとアメリカの交渉の歴史、スペイン語、手工芸哲学等々といったものにそれ自身のために興味を持ったのでなかったとしたら、この広告活動を効果的なものにしたと私が信じている資料の蓄積など決してものにしえなかっただろうと思う。
(中略)
ただし私の信ずるところではこれらの代理経験は何かさし当っての目的のためにくそ勉強するのでなくてそれ自身の目的のために追求するときに一番よく集めることができるようである。

 簡単に言い換えると「好きなものについて資料を集めてるときが一番効率的だし、そうして集めた資料は大抵役に立つ」ということである。

 だからこそ、僕は「何かを好きでいること」が、個性であり才能だと思っている。「好き」から始まる無数の活動は、イヤイヤやってる人間より遙かに効率的で、遙かに高品質なのだ。

 残業だの常識だの周囲の視線だのに紛らわされず、これを読んでいるあなたの「好きなもの」を徹底的に貫いて欲しいと思う。不運にもまだ「好きなもの」が見つけられていない人は、是非それを探して欲しいと思う。それによって生み出される「何か」が日本を少しでも良い方向へ変えてくれたら僕は嬉しい。

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